使い捨ての時代、ともすると保全ということについての価値観が失われつつある現代、最近の例だけでも、JR新幹線の事故(2010年1月、2010年3月)、化学プラントの爆発・火災事故(2012年3月、2012年9月)、地震、津波の結果とは言え原子力発電所の大事故(2011年3月)等々、大型設備の保守にかかわるトラブルの報道がマスコミを賑わせています。大型設備の保全の有り方に警鐘を鳴らすものと受け取るべきでしょう。 大型設備の保全の問題は、機器の種類が雑多な上、同種の設備でも設計が全く異なる機器が存在し、それらをどのように保全していくべきか、非常に難しい問題を含んでいます。現在は、保守マニュアル等の整備は進んでいるものの、設備を管理する部門、または、ベテラン技能者がそれぞれの機器やシステムの特徴と運転経験を基にして、努力と勘によって保守計画を立てているのが現状ではないかと思います。米国機械工学会のASME
Codesは、ボイラの事故という貴重な経験を基に、基準化を図り作られてきたものであり、現在も毎年アデンダを発行し、質を高めていく努力には敬意を表するに値するものがあります。一見ばらばらに見える電気設備にも、モータと負荷の間の「電力バランス」(高調波診断技法でいう負荷モード)を基に基準化していくことも可能だと考えます。 一方、高経年化したプラントや大型設備の増加により、経年劣化の管理が重要性を増す中で、保守不良、ヒューマンエラーによるものや偶発故障が後を絶ちません。こうした保守不良、ヒューマンエラーによるトラブルの低減や経年劣化の管理の徹底には、信頼性重視保全(RCM:Reliability Centered
Maintenance)の考え方を本格的に取り入れることが有効です。信頼性重視保全とは、設備の状態に応じた最適な分解・点検頻度の設定、運転中の機器の状態監視(オンライン診断)などにより、故障率低減に向けた最適な保全方式を追求する手法です。これは、定期的な分解・点検を過度に行うと、組み立て不良や異物の混入等の保守不良やヒューマンエラーによる故障発生の機会が増え、かえって設備の信頼性低下の要因になりうるとの認識に基づくものです。信頼性重視保全は、1960年代後半に米国航空機産業で導入され、その後1990年代以降に米国の原子力発電所の保全にも本格的に普及し、故障率の低下などに効果を挙げています。また、日本においても1980年以降に航空機産業や石油化学産業などにも導入されていますが、オンライン診断による状態監視が、軸受部の振動測定によるもののみであり、メタル軸受を採用している大型設備には適用できないなどといった課題を残しています。
信頼性重視保全は、機器の点検間隔を最適化し、分解・点検に伴う据付不良などによって発生する可能性のある初期故障(いじり壊し)を低減させることが可能です。加えて、振動測定が適用できない大型設備や、モータ巻線の絶縁劣化などのオンライン診断には、新しい診断技術である高調波診断技法により、機器の故障率の低減、ひいては設備及びプラントの安全性、信頼性の向上が格段に期待できます。 今後は、信頼性重視保全の質(精度)を高めるために、設備の電力バランスを基に保守時期の基準化を行うと共に、整備前データ等の蓄積と評価による点検方法や頻度の適正化を確認していく努力が必要となります。そのためには、従来の手法による過度な分解・点検の頻度を抑制し、かつ定期的な分解だけでは防止できない偶発故障についても、早期に兆候を捉えて対応が可能となる「高調波知的劣化診断システム」が、機知に富む〔今月の花
ナンテンの花言葉〕熟練者の経験やノウハウを伝承するシステムになると思っています。
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ナンテン(南天) 花言葉「機知に富む」 |
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2012年12月5日 来月のメッセージも是非ご覧下さい エイテック株式会社
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