The Kyoto Shimbun

高調波で設備診断

エイテック京都市左京区静市野中町

 熟練工には、工場設備の異常を機械音や振動で察知できる人がいるという。長年の経験がなせる特殊技能だが、団塊の世代の大量退職で次代への継承が危ぶまれている。

 「長期不況の影響で日本の企業は老朽設備を使い続けている。保全技術を高めないと事故の多発を招く」。エイテックの高博社長(63)はそう警鐘を鳴らす。同社は職人の勘に頼ってきた設備診断を機械化することで、事故の原因を未然に取り除く「予防保全」を産業界に広めようとしている。

 診断の手掛かりになるのは高調波。電流の基本周波数を整数倍した周波数で、モーターやインバーターなどの劣化や異常で発生する。放置すると機器の焼損や誤作動につながり得る。高社長らは機器の異常や劣化の「症例」を3万7200件集め、高調波との相関関係を調べて診断法を確立した。そのノウハウが詰まった診断装置は、分電盤にセンサーを当てて高調波を調べることで異常や劣化部位を把握できる。

 高社長は「異常があるとすぐに機器を替える会社もあるが、掃除やグリースで正常に戻る場合も多い。当社の診断技術を使えば、保全費の削減につながり、生産効率化や安全性の向上も実現できる」と力説する。納品先には大手自動車メーカーや家電メーカーなどそうそうたる顔ぶれが並ぶ。

 高社長と高調波の付き合いは37年になる。京都大大学院で研究を始め、韓国・延世大の教授を務めたこともある。当時は高調波を抑える研究が主流だったが、調べるうちに「機器が自分の健康状態を知らせる悲鳴では」と設備診断への活用を考えるようになった。


自社に設けた実験設備で診断装置の性能を確かめる高社長(左)。高調波で生産設備の健康状態を調べる「工場のお医者さん」のような存在だ(京都市左京区)
 
















その後はエレベーター会社でインバーターの開発に携わったが、高調波研究への熱意は捨てがたく、1991年に独立し、技術コンサルタントを始めた。「最初はいろんな工場を回り、ただに近い値段で設備を診断してデータを集めた。そのときの蓄積が今につながっている」と振り返る。

 2002年に株式会社を設立。本格的に診断装置の販売に乗り出す。05年には独自の診断手法が評価され、文部科学省の科学技術賞(技術部門)や日本ニュービジネス協議会のアントレプレナー大賞優秀賞などを立て続けに受賞し、装置の引き合いが格段に増えた。

 今年11月には通信機能を搭載した最新型の診断装置を発売した。測定データを同社のサーバーに送れば、数秒以内に診断結果をパソコンや携帯電話で受け取れ、発売後1カ月で約20台を販売する好スタートを切った。装置販売の傍ら、大学研究者や企業技術者と「高調波技術研究会」を立ち上げ、高調波を生体診断に応用する共同研究など、新しい市場を狙った取り組みも進めている。

 「ITベンチャーのような華々しさこそないが、地道な努力がここに来て実り始めた」。高社長はさらなる成長への手応えを感じ取っている。

[京都新聞 2006年12月10日掲載]

京都、滋賀には、独自の技術や感性を生かして、全国へ、世界へ羽ばたこうとする企業が数多くあります。「アップロード」はインターネット用語で、情報を発信することを意味しており、躍進、躍動する地元企業を紹介します。
毎月第2日曜日に掲載します。

≪メモ≫エイテック
2002年5月の設立。高社長が立ち上げた技術コンサルタント会社「高技術研究所」が母体となった。資本金8千万円。従業員は15人。06年3月期の売上高は1億6千万円

11月に発売した診断装置の最新モデル「KS―3000」